第12章 ・克己(注…R18)
彼女は静かに、しかし意を決して、彼の目を見詰め、言った。
彼は一瞬目を閉じ、また深い溜息を一つ吐く。
数秒の沈黙の後、彼は低い声で訊いた。
「……判った……おれで、本当にいいんだな?」
リリムは、無言で頷いた。
ゾロは一度だけ天を仰いだ。
一つ大きく息を吐き、剣豪……死皇帝としての『警戒』を解いて行く。
(相手は淫魔……こいつに敗けた時は、おれはそれ迄の男………今夜だけは、この『毒』を食らってやるのも、悪かねえ……)
強固な理性を少しだけ、溶かした。
キャバレークラブでの会話が、彼の脳裏を掠める。
『……優しいんですね、ゾロさんて』
その言葉に答えるかの様に、また小さく息を吐いた。
立ち上がり、リリムの傍らへ歩み寄る。
泣き腫らした目で見上げる彼女。
その頬を伝う涙を、無骨な指先で、男は優しく拭った。
「……おれが、お前の男になると言ったんだ……もう泣く理由はねえだろう」
ゾロは彼女の細い肩を引き寄せ、その逞しい腕の中に収める。
淫魔の体温は驚く程低く、震えていた。
(……ったく……淫魔の癖に……これっぽっちの覚悟で、男の部屋に来やがって……)
内心で悪態をつきながらも、左腕でリリムを抱き締めたまま、彼女の飲み残したビールが入っているグラスに右手を伸ばす。
そして、一気に飲み干した。
空になったグラスをテーブルに置くと、男は女を軽く抱き上げた。
リリムが放つ甘い香りと、ゾロが持つ野性的な熱が、部屋を満たして行く。
ベッドに彼女を横たえた時、ゾロの瞳には、最早迷いはなかった。
相手が淫魔だろうと、誰の代わりだろうと構わない。
真正面からぶつかって来たこの『純粋な魂』を、今夜だけは自分の『流儀』で受け止める。
それが、ロロノア・ゾロと言う男の選んだ『筋』だった。
そんな男の瞳に、華奢な女の体が映る。
彼女のその姿は、やはり淫魔。
部屋の薄暗い明かりを受けたその肢体は、まだ衣服を身に着けているにも関わらず、艶かしく淡く光っている。
その肢体に誘われるかの様に、ゾロがリリムに覆い被さろうとした。……その時。
不意に腰のタオルがふわりと解け、彼女の腹の上に落ちた。
彼女の瞳がゾロの男性を映し出す。
彼自身に、まだ変化は見られない。