第12章 ・克己(注…R18)
「……で、おれの所に来たって訳か」
リリムは俯いたまま、小さく頷く。
ゾロは溜息を吐き、半ば呆れつつ、苦笑した。
「何処でおれを見掛けたのか知らねえが……人選ミスだな。おれはそんな優しい男じゃねえぜ」
突っ撥ねる様に言うゾロに、リリムは恐る恐る訊ねる。
「……あの……もしかして、彼女さんとか、いるの……?」
「いるって言ったらどうすんだ」
「……うう……」
遂に、彼女は泣き出してしまった。
ゾロは頭を掻き、また溜息を一つ。
その時彼女の思念が、はっきりとゾロに届いた。
(……ああ……こいつ……マジかよ……)
その記憶に映るのは……色こそ違うが、ゾロの髪型に似た男。
それが、彼女の失恋相手だった。
想いが強過ぎる故に、ゾロに彼を重ねてしまったのだろう。
「しっかし……髪型だけで、顔、全然違うじゃねえかよ……」
ゾロは苦笑し、ビールを一気に飲み干した。
空き缶をゴミ箱に投げ捨てる。
カラン、と言う乾いた音が、静かな部屋に響いた。
溜息を一つ吐き、少しだけ声を和らげて、彼女に言った。
「……おれにゃ、女はいねえ。安心しろ」
彼女に、少し鋭い視線を向け、続けた。
「一つ、聞きてえ事がある。お前、淫魔だろ。なんでその男を魅了しなかった?そうすりゃ簡単に、お前の男になった筈だろ」
「……だって、そんな事しても……それは本当に愛されてる事には、ならないから……」
リリムはそこで、話せなくなってしまった。
大粒の涙が、彼女の頬を幾つも伝って行く。
淫魔である筈の彼女の純粋さに、無骨なゾロも流石に心打たれた。
(こんな淫魔もいるのか……)
何時もなら言える言葉。
『帰れ』
冷たく突き放すその一言が、言えなかった。
彼は、ふうっ、と一つ大きな溜息を吐いてから、暫く後。
そっと、彼女に言った。
「……しゃあねえ。今夜だけ……おれがお前の男になってやる」
「えっ……?」
「……今夜だけ、だぜ?」
ゾロは、笑ってそう言った。
リリムは驚いた様に目を見開くと、また泣き出してしまった。
彼は右手で頭を搔きつつ、苦笑する。
「……おれ、なんか悪りぃ事、言っちまったか……?」
「……ご、ごめんなさい……あ、あの……私……」
ゾロに聞こえるか聞こえないかの小さな声。