第12章 ・克己(注…R18)
「……おい、お前、ビール飲めるか?」
「……えっ?」
「……飲めるのかって、聞いてんだ」
「あ、あの……少しなら……」
「少しか、判った」
ゾロは棚から小さなグラスを取り、それにビールを半分程注ぐ。
泡が静かに立ち上った。
「ほら、飲めよ」
ぶっきらぼうにそう言いつつ、グラスをテーブルに置いた。
「あ……ありがとう……」
リリムが小さく礼を言い、グラスを口に運ぶ。
「……で、おれに何の用だ。黙って他人の部屋に入って来るなんてよ……ここに居たのがおれでなかったら、お前……不法侵入で通報されてるところだぞ」
ゾロは、リリムに鋭い眼差しを向ける。
魔界には魔界の、人間界には人間界の『決まり事』がある。
『郷に入っては郷に従え』
その言葉は、和平協定の中にある、条項の一つとなっていた。
彼女は無言で頷いただけで暫く黙していたが、やがて掠れた声で、振り絞る様に言った。
「……ごめんなさい……決まりを破る気はなかったの……好きな人に振られちゃって、それで……」
聞いたゾロは無表情のまま、リモコンを手に取りスイッチを押した。
テレビ画面が、真っ暗になる。
「……それでおれの所に来たのか。恋愛相談ならよ、隣にいるロキって奴の方が向いてるぜ」
「……うん……でも、ロキさん、ちょっと、軽くて……」
「……ああ……まあ……だろうな」
ゾロは苦笑し、缶ビールを一口。
ロキの軽さは、淫魔族の間でも有名な様だ。
溜息を吐きつつ、静かに彼女を見詰める。
(……おれが誰だか、知らずに来たか)
彼女の心を読む迄もなく、無垢さが伝わって来る。
まだ若いリリムなのだろう。
そうは言っても、ゾロよりは遥かに年上なのだろうが。
……にしても、全く淫魔らしくない。
ゾロは一息吐いて、低い声で言った。
「……お前、おれの事知らねえだろ……おれがあいつより信用出来ねえ男だったら、どうすんだ」
彼はビールを口にしてから、また続ける。
「……男の部屋に来るって事は……どうなるか判ってんだろな?」
脅す様に聞こえるが、そこに悪意はない。
ゾロの目は、寧ろ彼女の震えを気遣っていた。
リリムは唇を震わせ、声を絞るように言った。
「……彼の事、忘れたくて……誰かが傍にいてくれたらって、思って……」