第11章 ・東京
指先に力が入る。
掌に残る振動が、まだ消えない。
刀とは違う。
だが、何処か似ている。
……強くなる匂いがした。
大剣豪に続く、新たな目標。
「お前の場合、手はデカいし指も太いからな、指を立てるんじゃなく……こうやってアーチ状にして、他の弦に当たらねえ様に指先で押さえる様にしてみろ。親指の位置はネック裏の真ん中辺りに……そうそう。脇は締めて、力は抜け。ピッキングも力を抜いて滑らかに……そうそう、いいねえ!!」
ゾロの筋の良さに、ロキは心が躍った。
右膝を掌で軽く打ちながら、一定のリズムを作り出す。
ゾロはそのゆっくりした拍に合わせ、慎重にダウンピッキングを繰り返す。
何時の間にかゾロの目は、トレーニングをする時と同じ目付きに変わっていた。
集中し、リズムに合わせてコードチェンジの練習を続ける。
その動きだけでも、額に汗が滲む。
ギターを弾くのもまた、戦いである。
三十分程経った頃、ゾロの腹が鳴った。
ふうっ、と大きな溜息を一つ。
ロキの顔を見るゾロの目に、決意の光が宿る。
「……ロキ。明日、ギター売ってる店に行きてえんだが……連れてってくれるか?」
その言葉に、ロキは満面の笑みを浮かべて答える。
「勿論だ、Brother!!」
「……流石に、腹減った……」
ゾロは笑いながらアンプのボリュームを落とし、シールドを外して、また静かにギターを抱え直した。
ロキはアンプ近くに置かれている棚からクロスを取り出し、ゾロに手渡す。
「ほら、Brother……次はこいつで弦とボディを丁寧に拭いて、スタンドに戻すんだ。毎回弾いた後は、汗とか脂を拭き取ってやるのを忘れんな」
「ああ、勿論……大事に手入れしてやるよ」
ロキからクロスを受け取ったゾロは、迷いのない手付きでボディを拭き始めた。
弦の一本一本に指を添え、脂を拭い去る。
その手入れの仕草に、ふと刀を思い出した。
血脂を拭い、打粉を振り、油を引く……あの静かな時間。
手にするものは違っても、向き合う心構えは同じだった。
その指先に残る振動が、まだ消えない。
木と金属の塊の筈なのに、不思議と生き物の様に感じた。
気付けば、言葉が零れていた。
「……いい『刀』だ…… 」
ゾロは無意識に、楽器ではなく武器を称える言葉を口にしていた。