第9章 雄英体育祭
砂埃が晴れたとき、場内は言葉を失っていた。
むき出しになった繋原の左腕は、まるで“過去”そのものだった。生々しく刻まれた傷跡の数々は、明らかに通常の訓練や戦闘で負ったものではない。
相(見えちまったか…さぁ、どうする、繋原)
プレゼント・マイクが、一拍だけ遅れて声を上げる。
マ「……お、おっとォ!? これは……見えてしまったァ……!!」
しかし、いつものノリを貫くにはあまりにも重い空気だったのだろう。
マイクのトーンは、微かに揺れていた。
観客席がざわめく。
観客1「え、なにあの傷……」
観客2「そんな……」
観客3「ずっと、あんな体で……?」
1-Aの仲間たちも、言葉を失っていた。
切島が唇を噛み、上鳴は目を丸くしたまま動けず、八百万は胸元で手を組み、強く握っていた。
峰田がぽつりと呟いた。
峰「……俺、何言ってんだよ……」
誰も咎めなかった。
ただ、目を逸らせなかった。
その中心で、繋原は静かに立ち上がる。
肩で荒く息をしながら、しかしその眼差しは揺るがなかった。
デクもまた、その場から動けなかった。
ただ――ただ、彼女の“痛み”を正面から見ていた。
セメントスやミッドナイトが止めようと動き出す。
するとマイクの席を横取りし、相澤が話した。
相「止めるな。彼らは今本気でぶつかり合っている。それを止めるのは、彼らの"本気"を侮辱する行為。最後まで見届けてください」
心配そうな表情は変わらなかったが、相澤の言葉に2人は立ち止まった。
相澤の言葉が止まったのを確認すると、は話し出した。
「前にさ……“ヒーローになりたい理由”を聞かれたこと、覚えてる?」
繋原の問いに、デクが小さく頷く。
緑「……うん。“人気者になりたい”って、言ってた」
「……あれ、嘘じゃない。けど、全部じゃなかった」
観客席では、お茶子がそっと口元を覆い、飯田はまっすぐに前を見据えていた。轟はわずかに目を細めている。
「私ね、昔……病院に“役に立つから”って、高値で両親に売られたの」
緑「あ……」
デクと共に観客席からも、誰かの小さな息が漏れる。