第9章 雄英体育祭
「ずっと閉じ込められて、実験体みたいにされてた。壊して、治して、また壊されて。逃げようとしたら、“逃げたらもう価値がない”って……」
相澤が、誰よりも静かに、その場を見つめていた。
腕を組んだまま、けれど目を逸らすことなく。
「でも……死にそうになって、思わず逃げた。分解して、誰にも見えないようにして。そこで身につけたの。自分の体を極限まで小さく分解する、"ナノ化"を。そしたら、やっと逃げられた」
峰「あいつ…おいらを驚かす時に使ってたあの技…そんな状態の時に編み出したのかよ…」
プレゼント・マイクはマイクを持ったまま、言葉を止めていた。
ただ、無言で観客に向けて「静かに」と手を挙げる。
「逃げた私は、もう生きてちゃいけないんだって、思ってた。でも……それでも死にたくなかった。」
の声が震えた。
「だから、多くの人に認められて、自分の価値を、自分で証明したい。……それが、私が“人気者になりたい”って言った理由」
一瞬の静寂。
デクはのあまりに凄惨な過去に、絶句した。
轟以上の衝撃を受けた。
緑(想像もつかない…そんな地獄のような日々…。それでも繋原さんは、自分の力で、ここにいる。ならそれをちゃんと受け止めるのが…今の僕にできる…精一杯だ)
デクの、まっすぐな声が響いた。
緑「……繋原さん。ありがとう。話してくれて」
が目を見開く。
緑「その気持ち、ちゃんと届いた。でも……それでも、勝つよ」
「うん。……それでいい」
その言葉に、観客から自然と拍手が湧き起こった。
プレゼント・マイクがようやくマイクに口を寄せる。
マ「こ、これはァ……! 予想を超えた一戦になってきましたァァッ! “過去”と“信念”が交錯する、感情のバトルだァーーッ!」
再び、熱気が戻り始める場内。
相澤は変わらず無表情だったが、口の端が、ほんのわずかに動いた。
その表情を、観客の誰も知らない。
ふたりの距離が、再び近づいていく。
そして戦いは、まだ終わっていなかった――。