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ラストラインを越えて

第33章 後年


キトウホマレ死没から数年後。
「ねぇ、やめといた方がよくない?」
「あともうちょい……」
夕方のトレーナー室で、3人のウマ娘が神座のデスクに集まって何やら話している。
「ほんとにヘアピンなんかで開くの?」
「大丈夫だって。これの為にピッキング動画いっぱい見たんだから!」
「壊して怒られたらどうしよう……」
3人は神座の管轄しているチームのメンバーだ。
開けているところを見たことがない一段目の引き出し。いつも鍵が掛かっていて、何がしまい込まれているのかは誰も知らない。
「いい歳した男なんだしエロ本でも隠してるんじゃない?」
「ええ~? それマジなら超気マズイんですけど」
からかい混じりに笑いながら、ヘアピンを鍵穴にカチャカチャしていたウマ娘がふと指先に手応えを感じた。
「お……開いたっぽい」
「えっ、すご! 早く中見よ!」
沸き立ちながら引き出しを開けるウマ娘たち。
「さーて、神座トレーナーの秘密のお宝はー……あれ?」
期待の高まっていたウマ娘たちは拍子抜けした声を上げる。
引き出しの中にはクリアファイルに綴じられた数枚の書類が入っていた。
「なーんだ。私たちのやつじゃん」
契約時の署名や健康情報、緊急連絡先の控えなどの紙が整頓された状態でしまわれていた。
個人情報だから鍵付きの場所に入れられている。ただそれだけのことだった。
「なんかガッカリ……ん?」
閉めようとした手を止める。奥に何かあるのが見え、引き出しを最大まで開けた。
綺麗な装丁が施された深い青色の小箱が隅に収められている。すかさず1人が箱を手に取り蓋を開けた。
「蹄鉄……?」
小箱の中には古びた蹄鉄がひとつ。
箱の内側には柔らかなクッションが敷き詰められていた。
「誰のだろ……小さめの足だね」
「でも消耗品を何でこんな大事に取っといてるのかな?」
「えー……好きなコの使い古し、とか……?」
その言葉に、一瞬沈黙が流れる。
「ダハハハハ!! それだけは絶対にない!!」
「あの石仏センセーだよ!? マジ笑えるんだけど」
「てか、なんか見ちゃいけないもん見てる気がしてきた! 戻ってくる前にさっさとズラかろ!」
箱を元に戻し引き出しを勢いよく閉め、その場からドタバタと走ってトレーナー室から出ていった。




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