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ラストラインを越えて

第34章 ⏰


『いやぁー……惜しかったねぇ』
神座のトレーナー室でキトウホマレがデスクチェアを揺らしながら呟く。
シニア級の有馬記念から3日が経過していた。
「ええ。僕は正直、掲示板に結果が出るまではあなたが勝ったと思っていました」
『でしょ? ほんと今になっても実感できなくてさ~』
言いながら、神座のPC画面に目を向ける。
動画アプリに有馬記念の勝利インタビューの様子がアップロードされていた。
〈あのね、最後にビューンって脚が動いてね!す~っごく楽しかったの!〉
バックボードの前に立つ明るいピンク色の髪のウマ娘――ハルウララ。
輝くような無邪気な笑顔を見て、ホマレは当日のことを思い出した。
ほぼ真横を走るオルフェーヴルに追いつかれないよう必死に走ってゴール板を駆け抜けた後……ふと横を見るともう1人並んでいた。
そのウマ娘は、減速しながら嬉しそうに楽しそうに観覧席に手を振っていて。
掲示板の着順を見てより一層弾けるように飛び跳ねる姿を見てしまい、その時ばかりは悔しがることすらホマレは忘れてしまった。
『すごいよね。とんだ伏兵がいたもんだよ、まったく』
「最後の最後であっけなく追い抜かれるとは。これだからウマ娘のレースは……」
そう言う顔はいつも通りの無表情だったものの、どことなく好奇心を孕んだ声色をしていた。
『あー!トレーナーもしかしてあの娘を選べば良かったとか思ってない!?』
神座が自分以外のウマ娘を見て興味を示している。
そう感じたホマレは焦った様子で椅子から立ち上がった。
「さあ? 少なくとも3年前の時点ではあのウマ娘は僕の選択肢にありませんでした」
『そこは「僕にはあなただけ」って言ってよ……! もー、ファイナルズでは絶対勝つからちゃんと次も見ててよね?』
神座は怒るホマレをいなしながら資料を整頓する。
ホマレの結果は2着だったが、オルフェーヴルを追い縋らせたときの一瞬の気迫は3年間の集大成そのものに思えた。
3年目の12月も残りあと少し。
来年以降のシニア級も契約を続行し、共に駆けることに決まっている。
検証はキトウホマレの卒業まで続く予定だ。
むくれた様子で椅子を回すホマレに目を向け、神座は浅く息を吐いた。









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