第32章 処理
窓の外からは練習に励むウマ娘たちの声が遠くから微かに聴こえてくる。
枯れ葉が風に運ばれる音、野鳥のさえずり、校舎から漏れ聞こえるチャイム。
いつもと何ら変わりない環境音が、静かな室内の輪郭を撫でるように浮上しては消えていく。
ふと、階段の方からバタバタと駆けてくる一人分の足音が通路に響いた。
神座は視線を上げかける。
――トレーナー!
聞き覚えのある気配が、思考の外側で一瞬よぎった。
しかし足音はそのまま遠ざかり、別の部屋へ消えていく。
「…………」
神座は無言のまま視線をデスクに戻し、再び資料の整理を続ける。
足音は戻らない。
神座は、静かに椅子を回した。足先に合わせて、ほんのわずかだけ。
静まり返った部屋で、その小さな軋みだけが、時間の隙間に音を残した。