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ラストラインを越えて

第32章 処理


有馬記念の一件から十日ほどが過ぎた。
結局キトウホマレはその日の内に死亡が確認された。
メディアやら何やらはホマレを「幻の一着」などと囃し立てるだけ囃し立て、今はクラシック三冠と有馬記念を制したウマ娘の記事ばかりを連日書き立てている。
キトウホマレの名前は1週間もしないうちにすっかり見なくなった。
葬儀への参加、学園へ提出する書類の事務処理、遺品の引き渡しなど諸々の事を済ませた神座はこの日、トレーナー室で黙々とPC作業をしていた。
3年間に及ぶ、キトウホマレに関する膨大なデータの整理。
日々のトレーニングメニュー、計測タイム、身長や体重、食事内容、睡眠時間、体温や心拍数など――1000日足らずの様々な記録がPCや紙媒体に溜まっている。
"キトウホマレ"と題されたフォルダの中にあるデータから残しておくべき情報ともう不要になったものに分け、そのどちらもを外付けの保存領域に移す。
文字、画像、映像のいずれも欠損なく移行できたのを確認し、デスクトップからそのフォルダのショートカットアイコンを消した。
次は紙類を整理しようとデスクから立ち、それらが収めてある棚に向かう。
主に学園から配布された書類やデータに入力する程でもなかったメモ、ホマレが出走したレースやホマレ自身について取り上げられたスポーツ新聞、雑誌などのスクラップ。そして今までに送られてきたファンレターが保管されている。
必要分取り出し、デスクに置いた。
差し込んできた西日が眩しい。神座はブラインドを下げ、外からの光を遮断する。
デスクチェアに座り直し、運んだものに手を伸ばした。
検閲前のファンレターが数十通。
現役のときに届いたものより、この十日間のうちに送られてきたホマレの死を悼む手紙の方が圧倒的に多い。
キトウホマレ本人に読まれることはもう無いのに。
不要といえば不要。しかし処分するべきとも思わない。
あとで遺族に引き取るかどうかの相談をするのがいいだろう。
神座は、まだ開けていなかったファンレターを一通一通確認しながらしばらく過ごす。
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