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ラストラインを越えて

第31章 再有馬


『(そろそろレースが動く……)』
コーナーの曲がり始めで、先行勢がじわじわと加速していく。
仕掛けどころまであと少し。ホマレは緊張の面持ちで中団に目を向けた。
『(オルフェーヴル……ブロックされてる!)』
彼女の近くにいるウマ娘たちが一丸となって外への進路を塞いでいる。
チャンスでしかない。
ホマレはその光景を視界の端に留めたまま、外へと身体を寄せた。
芝を蹴る音が重なり合う。バ群の外壁を滑るように抜け、中団の外めを確保。
そのまま勢いを殺さず第4コーナーへ進出した。
外から仕掛けるウマ娘が一気に増え、バ群の速度が一段上がる。
ホマレは焦らず、芝の弾力を感じながらわずかに加速を乗せた。
視界の端で、オルフェーヴルが壁を割って出ようとするところが見える。
仕掛けどころで中団勢がバラけ、隙間ができたみたいだ。
けれどまだ抜けきってはいない。外の流れを掴んでいるのは自分だった。
『(好機はムダにしない……!今日こそ私が勝つ!!)』
蹄鉄が芝を裂く。加速に合わせて風圧が頬を打った。
カーブの外壁をかすめるように身体を立て直し、ホマレはコーナー出口の光を捉える。
遠くに見えるゴール板とスタンドのざわめきが、急に鮮明に聞こえ始めた。
――直線。
風が変わった。冷たさの中に熱が混じる。
ホマレは体の反動を利用して、坂に向けて一気に脚を解き放つ。
『(神座トレーナー!私に力を……ッ!!)』
外から伸びていく。バ群の表面をなぞるように進路を取って、先頭を走る一団へとその姿を食い込ませた。
ホマレはずっと向こうのスタンドに目を向ける。
ゴール板の前、その先頭から神座が自分の走りを見てくれている。
200メートル先の視線を思い浮かべホマレはさらに加速した。
胸の奥にじわりと熱が迸る。
早まる鼓動と共に脚の回転も増し、それに任せて坂を上っていく。
ふと、背後から何かがとてつもない勢いで近づいてくるのを感じた。蹄鉄の音でも、息遣いでもない。
まるで空気そのものが押し寄せてくるような圧だった。
次の瞬間、地面が震えた気がした。
芝の上を滑るような気配。オルフェーヴルだ。
『(……速い。音が違う……!)』
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