• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第31章 再有馬


『(今年最後のレース……頑張って走ろう)』
緊張している。
全身の毛が逆立ち、筋肉が短く震えた。
少しでも気を鎮めようと、ホマレは自身の胸元にあるスカーフリングを掴む。
『(昨日トレーナーに言われた約束も破らなきゃいけない。でも……いいや。後でたっぷり叱ってもらおう)』
13回目の金属音が鳴ったところでホマレは留め具から手を離し、スタートの構えを取る。
ゲートが開くその瞬間を待つ、一瞬の静寂。
『(イチかバチか……やってやる!)』
ガシャン、と音を立てゲートが開いた。
ウマ娘たちが一斉に飛び出していく。
第3コーナーの入り口に向かう流れでバ群は横並びから縦に伸びていった。
ホマレは後ろから2番目の位置につき、自分の右前を走るオルフェーヴルの背中を認めた。
中団のすぐ後ろについて、内で脚を溜めている。
それを見ながら最初のコーナーを曲がってスタンド前へ。
坂を上りながら、ホマレは少しスタンドの方に目を向けた。
『(神座トレーナー、ちゃんと見ててね)』
居場所はわかっている。
けれど集中するために注視はせず、気配だけに留めた。
バ群はターフビジョンの前を駆け抜け第1コーナーへ進む。
遠心力に振られて外に膨らまないよう気を付けながらコーナーを曲がり、向こう正面へ。
緩やかな長い坂を、スピードを乗せすぎないよう抑えめで下る。
先行勢の走りはそれなりで、やや締まったペースを刻んでいた。
ふいに内ラチ沿いを駆け下りていく黄金の影が、わずかに視界を掠める。
現在オルフェーヴルは中団の辺りにいた。
無駄のない脚さばき。どの瞬間も均整が取れている。
『(これが三冠ウマ娘の走り……)』
オルフェーヴルは中団に控えているだけのはずなのに、まるでレース全体の流れが彼女の呼吸に合わせて進んでいるかのようだ。
オルフェーヴルが動き出す気配をこの場の全員が窺っているらしい。
自分より前の状況を眺めながら、ホマレは息を入れ直す。
第3コーナーがすぐ目前に迫っていた。
/ 174ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp