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ラストラインを越えて

第31章 再有馬


有馬記念当日。キトウホマレは本バ場入場の際、少し道を逸れてウィナーズサークルの方面に進出した。
『あ、トレーナーちゃんと居る』
ゴール板前の柵のところに神座を見つける。
長身と長い黒髪がよく目立つ。
『おーい、神座トレーナー!』
ゲート裏に行く前にその場で手を振ると、神座は頷いてホマレに応えた。
『へへっ……絶対勝つとこ見せてやろ』
忍び笑いをしながら踵を返し、スタート位置まで向かった。





外回りの第3コーナー手前のゲート裏まで辿り着く。
『(……やっぱり、国内最高峰って言われるだけあってすごいな)』
普段のレースとは段違いの緊迫感が漂っていた。
幸い、去年のような息苦しさや身体の強張りはもうない。
けれど互いを牽制するようなビリビリとした気配を肌や毛が感じ取って少し落ち着かなかった。
各自ゲート入りまでの短い時間、各自で集中力を高めるように努めて過ごしているものの、その意識はいずれも1人のウマ娘に集中しているのが分かった。
無論ホマレも自然と目や耳がそちらを気にしてしまっている。
クラシック三冠ウマ娘――オルフェーヴル。
落ち着き払った様子で、仁王立ちをしている。
目を閉じているからあまり表情は窺えない。
けれど己が勝つことを確信しているかのような堂々たる姿でそこにいた。
『(今日のレースの最難関……あのオルフェーヴルをどうにかしなきゃ、神座トレーナーに私の勝利を届けることはできない)』
実力差から言って、勝てる可能性はほぼゼロ。
『(きっと今日、私が1着を取れると確信してる人は誰もいない)』
けれどそれが良い。だからこそ番狂わせが起こったときにより一層輝く。
この有馬記念でオルフェーヴルの栄光を踏み台にできれば、自分は他の重賞を幾度勝つより大きなインパクトを残すことができる。
『……』
ファンファーレの終わりと共に10万人の喝采が遠くから聴こえ、小さく息を吐く。
順番が来た。ホマレは尻尾をゆっくりと揺らしながら自分の枠番に入っていく。
次々とゲートが閉まり、刻一刻と出走の瞬間が迫る。
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