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ラストラインを越えて

第28章 2度目の夏合宿


『……神座トレーナーがたまに言ってる「ツマラナイ」のニュアンスって、そういうことだったりする?』
何を見ても驚かず、何を得ても満たされた様子のない神座。
ホマレは神座の視界を想像するように言葉を手繰り、辿々しく問いかける。
『毎晩打ち上がる花火みたいに、分かりきった景色が永遠にお出しされる……みたいな』
覗き込むようなホマレの視線が神座と交わる。
想定通りにしか進まない世界への諦観。知的満足の果ての虚無。
そんなものは、眼下のウマ娘には永遠に縁のないものだろう。
「生産性のない話題です。黙って花火でも見ていなさい」
神座はゆったりとした歩調を保ち、ホマレの前を行く。
その背中が一瞬ごとに違う色に照らされるのを眺めながらホマレもついて歩く。
『私は別に、花火じゃなくても……』
神座と話したい。神座のことがもっと知りたい。
そんな思いを口にしようとしたが、衝撃波を伴う爆音に二の句は掻き消された。
『……っ』
両耳を握りながらホマレが花火に目を向ける。
ラストスパートに差し掛かっているようで、巨大な閃光が絶え間なく夜空を埋めていた。
体の芯まで響く振動と濃い煙を撒き散らしながら、色とりどりの大輪が咲いては崩れ落ちていく。
『すごい音だね。びっくりした』
ホマレは耳を伏せながら不満そうに神座の隣まで駆け寄った。
神座は特に何か答えるでもなく、おもむろにホマレに目をやる。
『……』
花火が逆光になって神座の顔はよく見えなかったが、どんな表情をしているかなんて見なくてもわかる。
ホマレもそれ以上話し掛けず、2人で宿舎までの道を歩き続けた。
『(今日の事も……神座トレーナーの中では、ただの出来事になっちゃうのかな。私との日々も、大したことなかったって、忘れていくのかな……)』
ふと、そんなことを思う。
自分は神座と共有した時間を掛け替えのないものだと思えても、神座は「仕事だから付き添った」で片付けてしまえる。
『(そうなったら……すごく寂しい)』
自分の全盛期の終わりはそう遠くない未来にくる。
どんなに遅くても成人を迎える前には勝負の世界から身を引かなければいけない。
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