第28章 2度目の夏合宿
『トレーナー、こういうの来たことある?』
「幼い頃、地元で数回ほど」
提灯の中でブレる灯りを見つめながら神座が答える。
『小さい頃は楽しかった?』
「いえ、特に印象深いことはなかったですね」
『ふーん……』
飴を齧る音が夜気の中に小さく響く。
ホマレは無言のままにんじん飴を2本とも平らげ、残った割り箸を近くのゴミ箱に捨てた。
『お待たせ。次なに食べよう……あ、食事制限ってやっぱ今日もある?』
「ええ、まあ。栄養の偏ったハイカロリーなものばかりなので、雰囲気を楽しむ程度の量に留めておきなさい」
『そんな~……』
山のような焼きそばを幸せそうに頬張りながら歩く葦毛のウマ娘を遠目に見ながら、ホマレは不満げな声を上げる。
「人それぞれの代謝があるので、他者の大食いに感化されないように。増えた体重を元に戻す努力なんてしている暇はありません」
『わかった……。じゃあ、食べ物じゃない屋台でも見てみよっか』
手についた飴の欠片を払いながら、ホマレは神座と共に参道へ戻る。
射的やくじ引きをしたり、金魚すくいや盆踊りを眺めたりなどして遊んだ後、最後にたこ焼きを袋に包んでもらった。
その帰路の途中、2人の頭上でふいに爆発音が響く。
『……? あっ、そういや花火あるんだっけ』
ホマレが立ち止まり、音のした方に目を向けた。鮮やかな色の光が轟音と共に夜空に浮かんでは散っていく。
周辺の人々も同じ方向を見上げ、それを眺めていた。
「ここで立ち止まると通行の妨げになります。隅に避けるか、歩きながらにしなさい」
『はーい』
断続的に打ち上がる花火を眺めながら宿舎までの道を歩く。
『綺麗だよね、花火。毎日上がればいいのに』
「もしそれが実現しても、どうせ飽きて音がうるさいと文句を言うでしょう」
『たしかにそうかも……。たまにしか無いことだから、ありがたく思っちゃうだけかもね』
ロマンの欠片もない神座の返しにホマレは片眉を下げながら微笑む。
神座の言葉通り、珍しさがなくなれば煩わしく感じてしまう日がきっと来る。
どんなに綺麗で魅力的でも、いつかはただの光と音だとしか思わなくなるかもしれない。