第28章 2度目の夏合宿
神社に着いた。もうすっかり日は落ちてしまったものの、屋台の明かりや頭上に連なる提灯が参道を昼間のように照らしている。
『わぁ……人いっぱい居る!』
地域住民らしき人とトレセン学園のウマ娘が半々の割合で来ていた。
ホマレは賑やかな人混みや明るい出店に目を輝かせる。
「合宿も祭りも今日が最終日なので人が集中していますね」
『はぐれちゃいそう。えっと、手とか……繋いどく?』
参道の入口でおずおずと手を差し出したホマレに神座は首を振った。
「いえ。もし見失ったら境内の手水のところに集合しましょう」
『ちぇっ。はぁい』
舌打ち混じりに返事をし、神座と共に屋台を見て回ることにした。
『何から食べよっかなぁ。トレーナーも気になるものあったら言ってね』
「大丈夫です」
神座の素っ気ない返答を聞きながらキョロキョロと目ぼしいものを探す。
辺りのそこかしこから甘い香りや香ばしい匂いが漂っていた。
トレーニング後で疲れたホマレの食欲を的確に刺激してくる。
『綿菓子もいいし、イカ焼きも捨てがたい……あっ、にんじん飴だって!あれ食べる!』
ホマレは嬉しそうに指差し、人の間を縫うように小走りで向かった。
それを歩いて追い、神座がにんじん飴の屋台に辿り着く頃にはホマレは会計を済ませていた。
『へへっ、ジャンケン勝った。1本トレーナーにあげるね』
人参を丸ごと割り箸で刺し飴でコーティングしたものを両手に1本ずつ持って、ホマレが近付いてくる。
「僕は結構です。全部あなたが食べなさい」
『えー?まぁ、ウマ娘以外の人って人参あんまり丸かじりしないもんね』
納得しつつ、さっそく片方のにんじん飴に歯を立てた。
「食べるなら人の少ないところに行きましょう」
神座に促されながら開けた場所まで移動する。屋台の陰になっていて、少し薄暗い。
ホマレは飴を齧りながら参道の上に連なる光を見上げた。
提灯の赤が風に揺れ、時おり神座の横顔をかすかに照らす。
いつもの無表情で、なんとなく退屈しているのがホマレにも分かった。