• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第28章 2度目の夏合宿


夏合宿最終日の夕方。
空が橙色になりかける頃、浜辺でのトレーニングを終えたホマレは神座と合宿所までの道を歩いていた。
『今さぁ、近くの神社で夏祭りやってるんだって。せっかくだし行ってみたいな』
松林に挟まれた砂地を進みながらホマレが言う。
神座は視線を前から外さずに返した。
「いいですよ。今日はもうやることもないですし、誰かでも誘って楽しんできなさい」
『トレーナーは? 何か他に予定あるの?』
自分には関係ないとでも言うような口ぶりに、ホマレは首を傾げる。
「予定はありませんが、特に行く理由もないので」
『そう言わずにさ。食べ物以外の屋台もあるらしいし、花火も上がるってよ?』
「結構です。僕のことは気にせず、勝手に行ってください」
いつものように淡々と答える神座の横顔を見る。
本当に関心がなさそうだ。
『……』
相変わらず、神座はトレーニングやレースに関係ないことにあまり応じてくれない。
ホマレは少し俯き加減に歩き、躊躇いがちに呟く。
『私は……神座トレーナーと行きたい』
自分は神座と一緒の時間を過ごしたいけれど、神座はそうではないらしい。
思い出作りに夏祭りに行けたら、と思って誘ったが断られてしまった。
『(2人で行きたかったな……)』
大人しく神座なしで行こう。
白い砂の混じったアスファルトを見つめながらホマレは耳を伏せる。
すると、隣から浅い溜め息が聞こえた。
「……わかりました。同行するので、着替えたら玄関口まで来なさい」
そんな神座の言葉に、ホマレは顔を上げる。
『いいの?』
「ええ。汗と砂まみれなのでちゃんとシャワーで流してくるように」
砂浜でのトレーニングのせいできな粉餅のようになった姿を指摘され、ホマレは少し恥ずかしそうに笑いながら頷いた。
『ありがとう。すぐに済ませるから待ってて!』
そう言って、ホマレは1秒でも惜しいとばかりに神座を置いて宿舎に走っていく。
その背を見ながら、神座は歩いて同じ方向に向かった。




/ 174ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp