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ラストラインを越えて

第28章 2度目の夏合宿


「これとかどう?オモチャに高電圧流すやつなんだけど」
電池で動くタイプのおもちゃが直流電流を供給する装置に繋がれている。
動物を模した人形が愉快なBGMを奏でながら手足を動かして歩くオモチャのようだった。
それが過剰な電力により、ガチャガチャと騒音を立てながらテーブルの上を這いずり回る様子が映る。
『うわ、すっごく速い。でもまだ7Vか……どこまで速くなるかな?』
「ニッチだね~……でも意外と再生回数多いじゃん。需要あるんだ」
少しずつ段階を踏んで電圧が上げられていくのを数人ではしゃぎながら見ていると、背後から声を掛けられた。
「あなた達。いま近くの部屋で会議をしているので、しばらく静かにお願いします」
声を掛けたのは神座だった。
合宿所は木造らしく、音が通りやすい。
多少離れていても向こうの部屋まで響いていたようだ。
「あ、ホマレちゃんのトレーナーじゃん。一緒に動画観る?」
「結構です」
伝えるべきことは伝えたからと、神座は踵を返し会議用の部屋に戻っていく。
『……』
ホマレは振り返ってその背中を見つめる。
『(一瞥しかくれなかったな……)』
自分の担当ウマ娘が目の前に居るにも拘わらず、視線は平等に配られていた。
それに対して多少の物足りなさを感じる。
「ちぇっ。一応ボリューム落とそっか」
「てか大部屋戻る?そこならいくらでも騒げるし」
部屋に入っていく神座を見届け、ホマレがまた動画に視線を戻す。
電圧は30Vまで上げられ、オモチャからは煙が立ち始めていた。
モーターの振動音が平坦になり、手足は空回りに近い状態になっている。
部品にも回路にもかなり負荷がかかっているようだった。
極限まで激しくなった動きがふいに止まった数秒後、画面内に火花が散る。
「あ、弾け飛んだ」
「やば~。とりま移動しよっか」
オモチャが完全に壊れたところで動画アプリを閉じ、ソファから立ち上がる。
「……何だかんだしょうもない内容ばっかりだったな」
「でも皆で見ると案外楽しめるよね~」
寝起きに使っている部屋に戻るため、全員でぞろぞろと階段に向かった。
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