第28章 2度目の夏合宿
8月半ばの夜、時刻は20時頃。合宿所のロビーには6人前後のウマ娘たちが集まっていた。
年季の入った3人掛けソファの座面やアーム、背もたれなどに身を預け、1つの塊のようになっている。
その日のトレーニングも夕食も入浴も済ませ、やることも特にないため友達同士でダラダラと時間を潰して過ごす。
誰が始めたのか、現在はスマホ内にあるお気に入りの動画を見せ合うなどしていた。
「ねーこれ見て。こないだ実家帰ったときの」
「猫ちゃんだ!可愛い~ッ。下で踞ってるのは妹さん?」
画面には見知らぬウマ娘の頭にしがみついている猫が写っている。
「そうそう。最近妹の耳を毛繕いすんのにハマってんだって」
言いながらアルターアワーは実家の猫が妹のウマ耳を丹念に舐める接写映像を見せつける。
「なんか見てるとゾワゾワする……」
何人かが自身の耳を触り、違和感を取り払おうとしながら呻いた。
「好きな動画とかってわけじゃないんだけど……最近は料理のショートばっかずっと観ちゃう。別に作ったりするわけじゃないんだけどさ」
「わかる~。無限に時間吸われるよね」
他のウマ娘が開いたアプリで料理の動画を出した。
「今のにんじんジャム美味しそうじゃん。今度一緒に挑戦してみない?」
キャッキャしながら次々とショート動画をスワイプしていく。
それを傍目に別のウマ娘が隣に話しかけた。
「ギンガはどんなの観たりすんの?」
「私も料理動画をよく見るわ。この人が特に好きね」
訊かれたギンガウェーブがアプリを開きながら答える。
「畳にまな板直置き……?うわ、調味料入れすぎ」
「ホラー映像の間違いじゃない?」
排水溝のような音がスマホのスピーカーから流れた。
「あとはビデオか何かの改変動画もよく見るわ。こういう……寿司の配達に来た男が永遠にマンションの階段を上り続けるやつとか、睡眠薬入りの飲み物をおかわりし続けるやつとか」
「何それ?ギンガのおすすめ動画、どれも文字が横に流れてくね……」
「弾幕ってやつよ」
ギンガウェーブが見せたいシーンだけ再生し、すぐにアプリを閉じる。
「レース観たり音楽聴く以外に使ったことないな。皆どうやってそういうの見つけてくるんだ?」
「大体はおすすめに勝手に出てきたりとか」
言いながらライブラリを漁る。そこからあるサムネイルをタップした。
