第28章 2度目の夏合宿
ホマレは小さく返事をして、その背中のすぐ後ろを歩く。
『トレーナー、追いかけてくれてありがとう。もう会えないかと思った』
「大袈裟な……と言いたいところですが、実際に低山でも遭難者が命を落とす事例はあります。何か間違えたら大事になっていました。山で道に迷ったらむやみに動き回らず、立ち止まるか山頂を目指すようにしなさい」
『……はい』
神座の言葉を受けて、ホマレは項垂れながらも素直に頷いた。
ゆっくりとした歩調を保ちながら躓かないよう慎重に進んでいく。
やがて山道に戻る頃には、木々の隙間から見える空がいつの間にか西日に染まっていた。
『ごめんね。時間ムダにしちゃったし……トレーナーの服も汚れちゃった』
「問題ありません。あなたが無事だったことが何より重要です。遅れもまた後日に取り返せます」
『……そっか』
神座が一生懸命追いかけて助けれてくれたのは、自分が神座の担当ウマ娘だから。
理由はきっと、それ以上でもそれ以下でもない。
けれどその事実が、ホマレの感情をどうしようもなく昂らせた。
『(私が神座トレーナーのウマ娘である限り、ずっとこうして気に掛けてもらえるんだ。できればいつまでも……一生そうでありたい)』
どこか抱いてはいけない気持ちである気がしながらも、ホマレは迸る喜悦を噛み締めるように胸元を静かに押さえた。
セミの声はすっかり止み、辺りも少しずつ暗くなっていく。
2人の足音と呼吸だけが、山を下るまでの間ずっと響いていた。