第28章 2度目の夏合宿
ホマレは訝しみ、ウマ耳の向きを変えながら音の正体を探る。
『(……?「動くな」って聞こえたような)』
如何せんセミの声がうるさい。聞き間違いの可能性がある。
こんな低い山で遭難した上に幻聴まで聞くなんて冗談じゃない。
一刻も早く神座の元に戻らなくては。
ホマレは深呼吸をし、もう一度進もうと脚を踏み出した。
「キトウホマレ、止まりなさい」
『……!』
背後から聞こえた声に振り返る。
見ると、そこには神座の姿があった。トレイルランの選手さながらの鋭い健脚でこちらに向かってきている。
『あっ……トレーナー!!』
ホマレはすぐに身体ごと向き直り、神座の方へ駆け寄った。
『神座トレーナー……!やっと見つけた!』
「……ようやく追いつきました。どれだけ山中を駆け回れば気が済むんですか」
神座が短く息を吐きながら言う。
全然疲れてなさそうな様子だったが、普段より髪が乱れ、衣服には枝に引っ掛けたような汚れや葉っぱの欠片がいくらか付いていた。
『ご、ごめんなさい。迷っちゃった……』
ヨタヨタとした足取りでホマレが神座のそばに寄る。
『でも元来た道を探すために頑張って色々歩き回ったり下に向かったり、大声で呼んだりしていっぱい走ったんだよ……!』
「山で迷った際にやってはいけないことを網羅してますね。追っていく端から離れていくので捕まえるのに手こずりました」
『うぅ……本当にごめん……』
尻尾を足元に引っ込めながらホマレが謝る。
「脚など痛めてはいませんか?」
神座が身体の状態を確認しながら訊くのを見て、ホマレはどこかホッとした気持ちで目元を拭った。
『大丈夫……坂路の続きできるよ』
「いえ、どのみち下山します。山をでたらめに走って体力も尽きたでしょう」
『うん……。トレーナーは怪我してない?』
山中を駆け回ったのは神座も同じだ。
ちゃんと運動靴を履いているとはいえ、ウマ娘の脚に追いつこうとしたのならそれなりの無理はしただろう。
「大丈夫です。先導するので、僕の後ろをついてください」
『……はーい』