第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
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扉が閉まる音がして、医務室には僕とだけが残される。
「……はっ……ん、……っ」
僕の腕の中で、が苦しそうに浅い呼吸を繰り返していた。
その背中を落ち着かせるよう、何度も撫でてやる。
(……いったい、どうなってる)
硝子から、が意識不明で倒れたと連絡を受けた。
残っていた仕事は力技で無理やり終わらせて、最速で高専に飛んで帰ってきた……なのに。
は、見知らぬ男の背中に腕を絡ませてキスしていた。
いや、見知らぬ男じゃない。
須和清仁。
最近、高専に出入りしてるとは聞いてたけど。
(……あいつ、とキスしやがって)
脳裏にこびりついた光景を思い出すだけで、イライラする。
僕は、制服の袖口での口元をごしごしと何度も拭いてやる。
その度に、が嫌がるそぶりを見せるが無視した。
冷たくなったの頬を両手で包み込む。
「。僕の声、聞こえる?」
「……ぁ、はっ、……」
返ってきたのは、熱に溶けたようなうわ言だけ。
虚ろな瞳は、僕の顔をまったく映していない。
ただ苦しげに、荒い息を吐いて身を捩るだけだ。
さっき、先生と呼んだのはたまたまか。
術式自体はすでに解かれているが、後遺症か?
……いや。
それだけで、ここまでなる?
それに、どうしての身体から呪力を感じる。
この子自身は、呪力を生まない。
薬か。
おそらく、ただの薬じゃない。
呪物か。
それとも、呪力を含ませた何か。
(……それよりも)
さっきからの身体をもやもやと巡っているもの――魔導だ。
六眼でも見えないけど、ずっと深い底の底で暴れ回っている気配がする。
この体内の呪力が、の魔導に影響している……というところかな。