第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
私はただ黙って、その背中が見えなくなるまで見送った。
「……よくやった、か」
自分で言っておいて、呆れるな。
あれは嘘じゃない。
釘崎たちは、本当によくやった。
でも、それとの状態が良いかどうかは全く別の話だ。
「……くっ、ぁ……」
医務室の中から、苦しげな声が聞こえた。
すぐに扉を開けてベッドに近づくと、は息を荒くして震え続けていた。
「……っ、ぁ……あつ、い……」
ひどく掠れた、うわ言のような声が漏れる。
薬が切れたか……。
そっと彼女の額に手を当てた。
(……どうなってる)
尋常じゃないほどの汗をかいているのに。
私の手に触れた彼女の肌は、氷のように冷たかった。
脈は異常に速く、不規則に跳ねている。
「、私の声がわかるか」
名前を呼んで声をかけるが、反応は返ってこない。
薄く開かれた目は、虚空を彷徨い続けている。
焦点がまったく合っていない。
すぐ目の前にいる私の顔すら、見えていない。
いや、視覚だけじゃない。
呼びかける声も、額に触れている私の手の感触も。
今の彼女には、何も届いていないようだ。
の身体で、いったい何が起こっている。
彼女の力が、関係しているのか。
(……くそ)
原因が何であれ。
この状態がずっと続いたら、身体が保たないだろう。
最悪の場合、目が覚めても――
もう、今までのとして戻ってこられないかもしれない……そんな予感がした。
どうにかして、食い止める方法はないか。
そう考えていた、その時だった。