第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
(……う、ん……)
ガンガンと、頭が割れるように痛い。
重い瞼をゆっくりと上げるが、まだ視界がぼやけている。
(……ここは?)
起き上がろうとして、身体に違和感を覚えた。
動けない。
両手首は身体の後ろで縛られ、足首にも硬いロープが食い込んでいる。
冷たい床に転がされたまま、まともに身動きが取れなかった。
(え……っ?)
何が起きているのか、すぐにはわからなかった。
考えようとすると、こめかみの奥がズキズキと痛む。
それに、首筋に残る嫌な痺れ。
そうだ。
あの子を追って、体育倉庫まで行って。
中を覗き込んで……そのとき、後ろから――。
「……目が覚めたか」
声のした方を見上げる。
薄暗い視界の中に、細井先生が立っていた。
「……な、んで……どういう、ことですか……」
まだ上手く回らない頭で、なんとか言葉を絞り出す。
「お前、呪術師だろ」
「……!」
「困るんだよ。これ以上、色々探られると。私の実験の邪魔なんだ」
呪術師だって、バレてた……?
いつから。
どうして。
それに、実験って……。
混乱する私を見下ろして、細井先生が怪しげな小瓶を取り出した。
「お前には、ここで大人しくしてもらう」
伸びてきた手が、私の顎を乱暴に掴む。
「や……っ」
首を振って抵抗しようとするけれど、縛られていて逃げられない。
小瓶が近づいたその時、鼻先をあの匂いがかすめた。
(この匂い……っ)
むせ返るような、ひどく甘ったるい匂い。
あの化学準備室で嗅いだ匂いと同じだ。
(嘘、いやだっ……!)
必死に口を閉じようとしたが、男の人の力には敵わなくて。
無理やり顎をこじ開けられ、 小瓶の中の液体が口の中へと流し込まれる。
「んっ、んんっ……!」
強烈な甘さが、舌にべったりとまとわりつく。
吐き出そうとしたけれど、口をきつく塞がれて、強制的に飲み込まされた。
「……っ、げほっ、ごほっ!」
塞がれていた手が離されると同時に、激しくむせ返った。
口の中に残る、おぞましいほどの甘さ。
(なに……これ……?)
じわじわと胃のあたりから、異様な熱が広がっていくのを感じる。