第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
警察の人を前に、半泣きみたいな顔で頭を下げている伊地知さんが写り込んでいた。
……土下座する一秒前みたいな姿勢だ。
「……っ、ぷっ」
思わず吹き出しそうになって、手で口元を覆った。
声が出ないように堪えるけれど、肩が震えてしまう。
絶対に、先生が何かやらかした後だ。
そして伊地知さんは、その尻拭いをさせられている。
先生はそれを面白がって、わざとこのタイミングで自撮りを送ってきたに違いない。
(伊地知さん、本当にお疲れ様です……っ)
心の中で手を合わせていると、また新しくメッセージの吹き出しが表示された。
『も写真送ってよ。僕もの顔見たいんだけど』
(む、無理だよ……っ!)
だって、向かいには人がいるし、部屋の明かりも消えている。
おまけにパジャマ姿。
それに、自撮り写真を送るのって……なんだか照れる。
『無理です! 部屋も真っ暗だし!』
『フラッシュ焚けばいいじゃん』
『ダメですっ。同室の子が起きちゃいます!』
『一瞬なら大丈夫でしょ』
画面の向こうで、先生がクスクス笑っているのが目に浮かぶようだった。
(……もう、強引なんだから)
頬を膨らませて、もう一度手元のスマホの画面を見る。
『僕もの顔見たいんだけど』
私がそうだったように。
先生も会いたいって思ってくれてるってことだよね。
(……ちょっとだけ、なら)
布団を頭の先まですっぽりと被った。
カメラのアプリを立ち上げ、 インカメラに切り替える。
画面に映った私は、パジャマ姿で髪も少し乱れていて。
どう見ても、かっこいい先生の自撮りとは大違いだ。
(でも……見たいって、言ってくれたし)
覚悟を決めて、シャッターボタンをタップした。
『カシャッ!』
部屋に、シャッター音が響き渡る。
(やばっ、音、大きかったかも……っ!)
慌てて布団から少しだけ顔を出し、向かいのベッドを覗き込んだ。
女の子は、さっき見た時と変わらない様子で眠っている。
(よかった、起きてない……)
ほっとして、再び布団の奥へと潜り込んだ。