第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
向かいのベッドからは、規則正しい寝息が聞こえる。
彼女は、すっかり眠りについているみたいだった。
(……ちょっとだけ、ならいいよね)
どうしても、大好きな人の存在を近くに感じたくて。
私は、メッセージの入力画面を開いた。
『今、何してますか?』
短い一言を打って、送信ボタンを押す。
こんな夜遅くに、迷惑だったかな。
やっぱり送らなきゃよかったかも。
布団の中で一人でもやもやしていたら、チカ、と画面が光った。
送ってから、ほんの数秒。
画面には、もう『既読』の文字がついている。
びっくりするくらいの速さで、返事が返ってきた。
『どうしたの? 寝れないの? 笑』
そのメッセージからは、いつもと変わらない、私をからかうような声が聞こえてくるみたいで。
(……ふふっ)
気づけば、口元が緩んでいく。
寝れないわけじゃない。
本当は、ただ先生と繋がりたかっただけ。
でも、そんな素直なことは言えなくて。
私はパタパタと文字を打ち込んだ。
『今日は寝ちゃダメなんです。見張り中です』
送信すると、またすぐに既読がつく。
画面の向こうで、先生が私のメッセージを待ってくれている。
そんなことだけでも、たまらなく嬉しい。
『僕もまだ仕事』
ぽん、と新しい吹き出しが表示される。
(先生も、まだ起きてるんだ)
じゃあ、あんまり邪魔しちゃダメだよね。
そう思って送るメッセージに迷っていると、続けて一枚の画像が送られてきた。
(……なんだろう?)
タップして開く。
画面いっぱいに表示されたのは、先生の自撮り写真だった。
いつもの黒い目隠し姿。
カメラに向かって、元気よくピースサインをしている。
(相変わらずかっこいい……ん?)
写真をよく見ると、先生の背後に誰かが小さく写り込んでいる。