第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
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借りもののベッドは、なんだか落ち着かない。
布団を首元まで引き上げて、そっと寝返りを打つ。
向かいのベッドでは、彼女が壁のほうを向いて丸くなっている。
さっきの拒絶から、ずっと一言も口をきいてくれないままだ。
(でも、一人にするわけにはいかないし……)
見張りを兼ねて、空いていた相部屋の子のベッドを借りた。
消灯時間を過ぎた部屋は、しんと不気味なくらい静まり返っている。
(……寝ちゃったかな)
暗闇の中、目を凝らす。
顔は見えないけれど、さっきみたいな酷い震えは収まっているみたいだ。
(とりあえず、落ち着いてるみたいでよかった)
野薔薇ちゃんと真澄ちゃんは、そろそろ寮を抜け出している頃だろうか。
頼もしい二人だから、きっと大丈夫だとは思う。
でも。
真っ暗な部屋の中でこうしていると、なんだか急に心細くなってきた。
布団の中で何度も手を擦り合わせているのに、指先はずっと冷たいままだ。
今日、食堂で見たあのおぞましい光景。
真澄ちゃんから聞いた、過去の出来事。
考えれば考えるほど、胸のあたりがざわざわして落ち着かない。
こんな時、どうしても先生の顔が見たくなる。
不安を振り払うように、こっそりとスマホを取り出した。
画面の明かりを一番暗くして、ロックを解除する。
写真のフォルダを開いて、大切にしている一枚の写真をタップした。
以前、先生と一緒に泊まった、熊本の温泉旅館での写真だ。
満面の笑みの先生と、顔を真っ赤にしている私。
(楽しかったな……)
仲居さんに写真を撮ってもらう時。
先生がぐいっと私の腰を抱き寄せて、頭が肩にぶつかるくらい近くて。
浴衣越しに伝わってきた、先生の体温。
耳元で囁かれた意地悪な声に、ドキドキしたこと。
画面の先生の顔を、そっと親指でなぞる。
いつもふざけているのに。
でも、誰よりもやさしく私の名前を呼んでくれる人。
大きくて、温かいあの掌。
(会いたいな……)
先生のことを考えるだけで、不思議と冷えていた指先がじんわりと温かくなった気がした。