第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
スマホのライトで、真っ暗な室内を照らした。
ライトを動かすと、乱雑に積まれた段ボールや、顕微鏡、ガラス器具が並ぶ棚が浮かび上がる。
鼻をつくのは、消毒液と薬品の匂いだけだった。
の奴、この部屋は甘い匂いがしたって言ってたわよね。
(あの子の勘違いかしら……?)
細井が全部片付けた後なのか、それとも……。
「野薔薇ちゃん、これ……」
真澄が、部屋の隅にあるデスクを指さした。
デスクトップのパソコンが、ぽつんと置かれている。
「何か情報が入ってるかも。ちょっと見てみるね」
真澄は、手慣れた様子でパソコンをいじり始めた。
知らなかったけれど、こういう機械の扱いにも慣れているらしい。
「手早く頼むわよ。私はその辺を洗うから」
真澄に背を向け、私はライトの光をあちこちに動かしながら部屋の中を物色し始めた。
棚の上の書類。
薬品のラベル。
机の引き出し。
一つずつ確かめていくが、怪しそうなものはどこにも見当たらない。
薬品。
器具。
授業で使う資料。
誰もが想像するような、普通の化学準備室。
(……まるで、私たちが来ることを知ってたみたいね)
その時――。
「野薔薇ちゃん……」
震えた声に振り返ると、真澄がパソコンの画面を見つめたまま固まっている。
私はすぐに物色をやめて、真澄の横へ駆け寄った。
「何か見つけた?」
覗き込んで、私は目を疑った。
(これって……)
表示されていたのは、『Re:bloom』での購入完了を知らせるメールの履歴だった。
細井は、あのサイトから種を買っていた。
(真澄の仮説が、当たってたってことね)
退学になった女の子の復讐のために、ターゲットへ次々とあの種を飲ませていた。
……そう考えるのが、一番自然だ。
「待って、購入数……三つって書いてある」
「……三つ?」
その数字を聞いた瞬間、頭の中で嫌なものが繋がる。
すでに二人が死んでいる。
なら、残りの一つは――。
細井がまだ持っているのか。
もう使ってしまったのか。
それとも、今まさに……次の標的の元へ向かっている?
寮に残した、の顔が頭をよぎった。
(……!)