第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
須和さん、そんな人気なんだ。
確かに、雑誌の表紙に載っている須和さんは、研究者と言うよりモデルさんみたいな雰囲気だった。
……そうだ!
流行の話題なら、少しは気が紛れるかもしれない。
(先生、ごめんなさいっ)
心の中で大好きな人にこっそり謝る。
これは、この子を少しでも安心させるためですから。
「うん。須和さん、すごくかっこいいよね。私も、本読んでちょっと気になってたんだ」
「……本、読んだの?」
「あ、うん。難しいところも多かったけど……なんか、言葉が綺麗で」
「わかる。須和先生の文章って、少し詩みたいよね」
あ、食いついてくれた。
よし、いい感じ。
話しやすい空気になった気がする。
この流れを途切れさせないように、話題を変えて他愛もない話を続けた。
授業で出た難しい課題のこと。
食堂で人気のデザートのこと。
言葉少なではあったけど、彼女も話をしてくれるようになった。
さっきより、表情もやわらいでいる。
「……ちゃんと話してると」
女の子が、不意にぽつりと呟いた。
「不思議。なんだか……優しい気持ちになれる」
「……え?」
「この学校って、表向きは綺麗で、みんな上品で、何もかも整ってるみたいに見えるでしょ」
「でも、裏では全然違うの。嫉妬とか、妬みとか、見栄とか……そういうのばっかり」
「私も、そういう空気に慣れすぎてたのかもしれない」
「……」
「ちゃんみたいな子が友達だったら」
女の子の声が、かすかに震えている。
「私、あんなこと……しなかったかもしれない」
あんなこと。
その言葉に、胸の奥がざわつく。
「……あんなことって?」
私は椅子から立ち上がり、彼女の目線に合わせるようにベッドのそばに膝をついた。
責めたいわけじゃなかった。
ただ、この子を助けたい。
そのためには、彼女が何を抱えて怯えているのかを、知らなきゃいけない。
「……よかったら、話してほしい。『あの子』って、誰なの?」
彼女の目が、わずかに揺れた。
「それは……――」
答えようとした、その時だった。