第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「なんで……そんなことに?」
私が尋ねると、真澄ちゃんは話しづらそうに続けた。
「……その子、細井先生と付き合ってるっていう噂があったの。それを学校にバラされて……」
「ちょっと待って。それが本当なら、教師の方がただじゃ済まないんじゃ……?」
野薔薇ちゃんがそう口にすると、真澄ちゃんは辛そうに目を伏せた。
「細井先生は……この学校の、学長の息子なの」
「えっ……」
「だから、先生はお咎めなしで……退学になったのは、その子だけ」
――先生と生徒。
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
他人事だとは、どうしても思えなかった。
もし、私たちの関係が知られたら――
上層部だけじゃない。
御三家だって、きっと黙っていない。
先生をよく思っていない人たちだって、そんな隙を見逃さないはずだ。
困るのは、私だけじゃない。
先生の立場も。
先生がこれまで守ってきたものも。
私が、壊してしまうかもしれない。
(そんなの……やだ)
考えれば考えるほど、指先が冷たくなっていく。
「それで、退学になったその子は今どうしてるの?」
野薔薇ちゃんに問われると、真澄ちゃんは目を伏せ、静かに首を横に振った。
「……わからない。学校を去った後のことは、誰も」
「じゃあ……」
私は二人を交互に見つめた。
「その退学になった子が、復讐のためにこの事件を起こしてるってこと?」
先生との秘密の関係をばらされたことで、被害者の子たちが順番に呪われている。
動機としては、十分すぎる。