第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
焦れば焦るほど、いい話題が思いつかない。
サラダをつつきながら、心の中で別のクラスにいる相棒へ必死にSOSを送った。
(野薔薇ちゃん……助けてぇ……っ)
人見知りの自分が、こういう時だけ本当に恨めしい。
こんな時、おばあちゃんなら三秒で打ち解けて、もう身の上話まで聞き出している気がする。
でも、今はそんなこと言ってられない。
やるしかない。
テーブルの下で、ぎゅっとスカートの裾を握りしめた。
「あ、あのっ……!」
勢い余って、声が大きくなってしまった。
カチャリ、と三人のフォークが止まる。
「ど、どうしたの? 大きな声出して……」
巻き髪の子が、少し驚いたように目を丸くした。
私は慌てて、引きつりそうな頬を無理やり上げて笑う。
「あ、ごめんなさい。えっと……私、転校してきたばかりで、まだクラスの全員にご挨拶できていなくて」
「その……ずっとお休みされている、窓際の席の方。どんな方なのかなって、少し気になって」
できるだけ自然に。
ただの転校生の、純粋な好奇心のふりをして。
すると、三人の間にさっきとは違う沈黙が流れた。
巻き髪の女の子が、そっとフォークをお皿に置く。
「……ああ。彼女のこと」
さっきまでの柔らかな表情から、すっと温度が消えていた。
声のトーンも、どこかよそよそしい。
隣に座っていた子が、周りを気にするように少し声を潜めた。
「さん、知らないのね。……彼女、最近亡くなったのよ」
「えっ……」
それは知っている。
でも、何も知らない転校生として驚いたふりをした。
「亡くなったって……どうして、ですか?」
私が尋ねると、三人は困ったように顔を見合わせた。
「さあ……詳しいことは……」
「たしか、自殺なんでしたっけ?」
もう一人の子が自信なさげに口にすると、巻き髪の子が首を横に振った。
「いいえ、私は事故だって聞いたわ」
よし。
このままの流れで、被害者の女の子のこと詳しく聞き出せないかな。
そう思って口を開きかけた時、食堂の入り口付近を通り過ぎる影が視界に入った。
(あっ……)
白衣姿。
細枠の眼鏡。
神経質そうな細い背中――化学の細井先生だった。