第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
準備室での出来事が一気に蘇る。
強く腕を掴まれた時の、痛いくらいの力。
見下ろしてくる冷たい目。
昨日のことを思い出しただけで、身体が小さく縮こまった。
見つからないように、慌てて顔を伏せる。
私の不自然な反応に気づいたのか、巻き髪の子が入り口の方へ視線を向けた。
「……細井先生ね」
彼女の顔に、明らかな嫌悪感が浮かんだ。
「あの先生、ほんと不気味よね」
「ええ、わかるわ。なんだか、すれ違うだけで寒気がするというか……」
隣の子も、心底嫌そうに同意する。
「授業以外は、ずっとあの化学準備室に閉じこもっているらしいわよ」
「それに、生徒とも全然話そうとしないし……」
三人が、さらにひそひそと声を落とした。
「あんな人が、どうしてこの学校の教職に就いているのかしらね」
生徒からも、そんな風に思われてるんだ。
私だけじゃなかったんだ。
三人の視線の先で、細井先生は誰とも言葉を交わすことなく、足早に食堂を出ていった。
その後ろ姿が完全に見えなくなったところで。
向かいに座っていたもう一人の子が、ふと思い出したように口を開いた。
「……そういえば。亡くなった彼女、何度かあの化学準備室から出てくるのを見かけたわ」
思わず、持っていたフォークを取り落としそうになる。
「えっ……それ、本当なの?」
「ええ。放課後とか、人が少ない時間に。何をしてたのかは知らないけど……」
被害者の子が、あの準備室に……?
あの細井先生と、亡くなった女の子。
二人の間に、何か繋がりがあったんだ。
(もう少しだけ、聞き出さなきゃ)
あの準備室に充満していた、甘い匂いのことも気になる。
彼女たちなら、何か知っているかもしれない。