第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「あの、その準備室から……何か変わった匂いとか、しなかったかな? 例えば、すごく甘い――」
「――――きゃあああああっ!!」
私の言葉を遮るように。
食堂の奥から、空気を裂くような悲鳴が響き渡った。
そこにいた全員が、一斉に悲鳴の上がった方へ視線を向けた。
私も、弾かれたように後ろを振り返る。
ガシャァン!とトレイがひっくり返り、食器が床に散らばる派手な音がした。
少し離れたテーブルの近く。
食事中の生徒たちが怯えたように後ずさりして、そこだけぽっかりと円形の空白ができている。
「がっ、あ……っ、あぁぁ……っ!」
その中心で一人の女子生徒が床に倒れ込み、苦しそうに喉を掻きむしりながらもがいていた。
「え……」
女の子の体は、床の上でビクン、ビクンと不自然に大きく跳ねている。
その異常な苦しみ方に、周りの生徒たちは悲鳴を上げるばかりで誰も近寄れない。
「誰か、先生を!」
「救急車、早く……っ!」
パニックになった声が飛び交う。
(……違う)
ただの病気や発作じゃない。
倒れている女の子の身体から、嫌な空気がする。
じわじわと滲み出すような、どす黒くて冷たい気配。
周りの生徒たちを掻き分けて、私は倒れている女の子の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか!? しっかり……っ」
床に膝をつき、彼女の身体に触れようと手を伸ばす。
けれど、その手は空中で凍りついたように止まってしまった。
※次ページ(P828)には、流血を伴う少しグロテスクな描写があります。
苦手な方は、P829まで読み飛ばしてください。
読み飛ばしても、その後のお話は問題なく追えるようになっています。