第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「ふふっ。はい、わかってます。……うん」
がもじもじと指で髪をいじっている。
嬉しそうに電話しちゃって。
見てるこっちが恥ずかしくなるわ。
(それにしても……なんでまたあの男なわけ?)
なら、もっと同年代のまともで誠実な男なんていくらでも選べるだろうに。
性格は最悪、デリカシーは皆無。
顔と強さと金以外に、褒めるところなんて一つもない。
まあ……あの海辺でに触れていた時の顔だけは、悪くなかったけど。
「……はい。じゃあ、また明日」
通話を終えたが、こっちを振り返った。
「終わった?」
「うん。お待たせ! 食堂行こ!」
誤魔化すように、が小走りでドアへと向かう。
その後ろ姿は、耳の先までほんのりと赤くなっていた。
(……たくっ)
すぐ顔に出るし、隠し事は下手だし。
放っておくと、一人で勝手に無茶をする。
そのくせ、誰かのためなら怖がりながらでも前に出る。
妙なところで頑固で、馬鹿みたいにまっすぐで。
『その子、野薔薇ちゃんにとって、すごく大切な人なんだね』
さっき私が真澄の話をした時に、はそう言っていたけど。
(……ほんと、鈍感ね)
真澄のことは、もちろん大切だけど。
あんただって、もうとっくに私の人生の席に座ってるのよ。
私の、大切な友達として。
が心から幸せそうに笑っていられるなら。
相手があの最悪なバカ教師だろうと、周りがどうだろうと。
私がとやかく言うことじゃないわね。
(まぁ、が自分から言うまでは、上手く騙されててあげるわよ)
先を歩いていたがふいに振り返った。
きょとんとした顔で首を傾げている。
「野薔薇ちゃん? どうしたの?」
「なんでもないわよ。ほら、早く行くわよ。食堂混むでしょ」
でも……もしあんたを泣かせるようなことがあれば、話は別。
あの五条悟でも、私が絶対にタダじゃおかないから。
そう心の中でだけ呟いて、私はの隣に並んだ。