第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「そろそろ食堂に行きましょ」
「うん! お腹減ったね。今日のご飯何かなぁ……」
そう言いながら、が体を起こしかけた、その時だった。
――ブルルッ、ブルルッ。
ベッドの上に置かれていたのスマホが、震え出した。
どうやらメッセージじゃなくて、電話みたいだ。
でも、はすぐにスマホを手に取ろうとしない。
なんだか気まずそうに、ちらちらとこちらの様子を窺ってくる。
(……どうせ、あの目隠しバカ教師でしょ)
私は、顎でのスマホをしゃくってみせた。
「いいわよ、出て」
「ごめんね。すぐ切るから」
が、こちらに背を向けて電話に出る。
「ええと……はい。大丈夫です。……もう、子ども扱いしないでくださいよ」
ひそひそと話してるが、声のトーンが普段私と話している時より明らかに甘い。
その背中を眺めていると、ふと、あの夏合宿での光景が頭をよぎった。
(そういえば、あの時も……)
朝焼けの海辺に、あのバカ教師とが手を繋いで並んで立っていた。
普段はふざけてばかりのあの男が、信じられないくらいやさしい顔での頬に触れていたのを覚えている。
まぁ、あんな決定的な瞬間を見るより前から、うすうす気づいてはいた。
そもそも、あの目隠しの過保護っぷりなんて、とっくに隠しきれてなかったし。
の方だって、あいつが絡むとすぐ顔に出る。
私が気づいているなんてこれっぽっちも思っていないんでしょうね。
今だって、必死にただの担任と生徒の電話のふりをしているつもりなんだろう。
まぁ、ただでさえ教師と生徒なんて厄介な関係。
それに、相手は他でもない『五条悟』だ。
あの男は、ただのバカ教師じゃない。
御三家だの、口うるさい上層部が二人の関係を知ったらどうなるか。
(……間違いなく、面倒なことになるわね)
先生だって、をそんな泥沼に巻き込みたくないからこそ、隠してるんだろうけど。