第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
準備室にあった、学校宛ての大量の段ボール箱。
細井という化学教師。
薬品棚の前で問い詰められたこと。
そして――
「準備室の中がね、すごく変な匂いがしたの。甘いような……」
「甘い匂い? 化学室だし、薬品かなんかなんじゃない?」
「でも……嗅いでると、頭がぼーっとするような感じがするっていうか。五条先生が言ってた件と関係があるかもって、思ったんだけど」
甘い匂いってだけじゃ、まだ決定打にはならないけど。
が準備室に入っただけで、その反応は明らかに怪しいわね。
ただ気難しいってだけなのかもしれないが。
「その細井って先生のことは、気になるわね」
「だ、だよね…… あ、野薔薇ちゃんの方は、どうだった?」
「私は…… 偶然、地元の友達に会ったわ」
「えっ!? そうなの!?」
が、目を丸くして身を乗り出してきた。
「もちろん、呪術師であることはバレてないわよ。家の事情で転校してきたって誤魔化したし」
「中等部からずっとここにいるって言ってたの。だから、明日その子にそれとなく探りを入れて聞いてみるわ」
「うん。それは心強いね」
はそう頷いたあと、なぜかじっと私の顔を見てくる。
「……何よ」
「ふふ」
「だから、何笑ってんのよ」
「野薔薇ちゃん、嬉しそう」
「……は?」
「さっき、その友達の話をしてる時。野薔薇ちゃん、優しい顔してたから」
そうなの?
思わず、自分の頬に手が伸びそうになる。
「その子、野薔薇ちゃんにとって、すごく大切な人なんだね」
まっすぐに言われて、返す言葉に詰まった。
なんで、それを。
私はただ、地元の友達に会ったって話をしただけなのに。
この子、いつもは鈍感なくせに。
こういうところは妙に鋭いのよね。
核心を突かれて、なんだか気恥ずかしくなる。
私はわざとフイッと顔を背けて、そっけなく言い放った。