第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
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お嬢様学校の女子寮の部屋は、そこらのホテルよりずっと豪華だった。
(……全寮制って、潜入任務には好都合だけど)
消灯時間だの門限だの、学校のルールがいちいち細かくて本当にめんどくさい。
ただ唯一の救いは、私とが同室に割り当てられたこと。
あの子と一緒じゃなかったら、こんな肩が凝る『お嬢様ごっこ』、三日も耐えられなかったかもしれない。
無駄にふかふかのベッドに腰掛けて、が来るのを待つ。
ほどなくして、ガチャリとドアが開いた。
「ただいまぁ……っ」
疲れ切った顔のが、ずるずると足を引きずるようにして入ってくる。
「なんか、ごっそり魂抜かれてない?」
私が尋ねると、はドアに鍵をかけてから、よろよろともう一つのベッドへ向かった。
そのまま力尽きたみたいに、ばふっと布団へうつ伏せに倒れ込む。
……本当に何があったのよ。
「野薔薇ちゃぁん……私、不審者になりかけました」
「は?」
何やってんのよ、この子は。
「あ、でも須和さんが間一髪で助けてくれて……」
「は? 須和さんって……あのノーベル賞候補の?」
私が聞き返すと、はこくこくと頷いた。
「うん。今度この高校で特別講演をするらしくて、その打ち合わせでたまたま来てたんだって。それで、危ないところを助けてもらったの」
なんでその人が、こんなタイミングで。
突然出てきた名前に、少しだけ警戒心が顔を出す。
確かに今回の『Re:bloom』事件について、その須和って人に協力してもらっているとは聞いていた。
でも、私はまだ直接会ったことはない。
はすっかり信じきっているみたいだけど。
都合よくを助けてくれるなんて、少し出来過ぎている気もする。
……まぁ、硝子さんの知り合いだって言うし。
今は疑うより、が無事だったことを優先するべきか。
「ふーん……。それで? わかったことって何よ」
「そうなの! あのね、クラスの子に頼まれて化学室に行ったんだけどね。そこの準備室に……」
そこから、は今日あった出来事を順番に話し始めた。