第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「『Re:bloom』の小包が、この学校宛に配送されているっていう情報があって……準備室に大量の段ボールが見えたから、つい、何かあるんじゃないかって思ったんです」
「それで、あの準備室を探ってたのか」
「はい。私、こういう潜入任務なんて初めてで……空回りばっかりです」
自分で言って、情けなくなる。
結局、決定的なものは何も掴めなかった。
それどころか、細井先生に怪しまれて、危ないところを須和さんに助けてもらって。
ほんと、何してるんだろう。
がっくし肩を落として俯いていると。
「慰めになるかはわからないけど」
そう前置きしてから、須和さんが話を続けた。
「ポール・エールリヒっていう、医学者を知ってる?」
ポール・エールリヒ?
急になんの話だろ。
「えっと……ごめんなさい。わからないです」
「彼が発明した薬に、606号って呼ばれるものがあるんだ。この数字、なんだと思う?」
「606……好きな数字、とかですか?」
「はは、ちょっと違うね。彼が、失敗を繰り返した回数だよ」
「えっ……! そんなに失敗したんですか?」
思わず声が大きくなってしまった。
「そう。でもね、科学や医学の世界では、失敗はただのデータなんだよ。このやり方は違ったっていうことがわかっただけで、正解には確実に一歩近づいてる」
「さんも、今はデータを集めている途中だ。空回りでもなんでもないよ。だから、そんなに落ち込む必要はないってことさ」
その言葉に、なんだか涙が出そうになる。
須和さん、優しいな。
すごい人なのに、嫌味がないというか。
先生ならきっと、「いやー、潜入向いてなさすぎでしょ」とか言って大笑いするに違いない。
「ごめん。今のあまり励ましになってないかな?」
「え?」
「いや、昔……家入にも言われたんだ。僕の慰め方は理屈っぽくて、どうもわかりづらいって」
苦笑いしながら、須和さんが頬をぽりぽりとかいた。
「そんなことないです……っ」
私は大きく首を横に振った。
「少し元気出ました、ありがとうございます」
「そっか。それならよかったよ。……あ、そうだ」
「どうかしましたか?」