第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
「実は、今度この学校で特別講演をしてくれって、学長から頼まれててね。今日は、その打ち合わせで来てたんだ」
須和さんは箱に貼られた伝票へ視線を落とす。
「これは、その時に使うサンプル。だから、あの説明は一応嘘じゃないんだ」
「そうだったんですね……!」
思わず、素直に感心してしまった。
「すごいです。あの場で咄嗟にそんな自然な説明が出てくるなんて……私なんか、頭が真っ白になっちゃって」
須和さんは、少しだけ目を細めて笑った。
「それが大人になるってことかな」
「大人になったら、嘘が上手くなるってことですか?」
思ったことが、そのまま口から出てしまった。
須和さんが、ぷっと吹き出す。
「あはは。さんは面白いな」
「す、すみません……!」
私、変なこと言っちゃった……!
せっかく助けてもらったのに。
これじゃあ、須和さんのことを「嘘つき」って言っているみたいじゃないか。
恩知らずにもほどがある。
(どうしよう。嫌な気分にさせちゃったかな……)
すると、須和さんが笑いを含んだ声で、ぽつりと呟いた。
「いや。君には、そのまま嘘が下手なままでいてほしいよ」
「……え?」
「ごめんごめん。気にしないで」
須和さんは私の抱えているノートと、さっきまでいた準備室の方へちらりと視線を向ける。
「それにしても、準備室で何してたの?」
「あ、それは……」
「潜入任務、ってところかな」
「……はい。お見通しですね」
須和さんは、少しだけ声を落とした。
「何か、厄介な事件でも起きた?」
「……」
すぐには答えられなかった。
任務のことは、原則として外部に話してはいけない。
でも、須和さんは「Re:bloom」の件で協力してくれている人だ。
それに、これからこの学校へ講演に来るなら、何も知らないまま巻き込まれる可能性だってある。
「……実は――」
私は、抱えているノートをぎゅっと握りしめた。
「また、あの白い花が咲いたんです。それに、今回は……まだ生きてる人から」
それを聞いた須和さんの表情から、すっと笑みが消えた。
「……被害者が、ここの生徒だったんです。だから、私ともう一人、同級生も一緒に学校の中を調べていて」