第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
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キンコンカンコン、と放課後を告げるチャイムが鳴り響いた頃。
(うーん……どうしよう)
私は自分の席に座って、頭を抱えていた。
被害者の女の子は、同じクラスということはわかったけど。
そもそも転校してきたばかりで、クラスメイトの輪に入るタイミングすら掴めずにいた。
この三日間の自分の行動を思い返すと、頭が痛くなる。
『女子の噂話といえば、トイレの個室だ!』
そう思い立って、休み時間のたびにトイレの個室に籠って聞き耳を立ててみたりした。
でも、聞こえてくるのは「新しいリップが~」とか「休日のお茶会が~」みたいな平和な会話ばかり。
足が痺れただけで、完全に空振りに終わった。
その後も、怪しい場所がないかと無駄に校内を歩き回ってみたけれど。
不審者のようにキョロキョロしている自分が浮いているだけだった。
(私、潜入の才能ないかも……)
机に突っ伏して、はぁ……とため息を吐いていると。
「あの……さん。今、少しお時間いいかしら」
不意に声をかけられて、勢いよく顔を上げた。
私の席の横に立っていたのは、クラス委員長の子。
きっちりと三つ編みをしていて、いかにも真面目そうな雰囲気の子だ。
「あ、はい。どうし……じゃなくて、どうされましたか?」
「突然お声がけして、ごめんなさい。もし差し支えなければ、ひとつお願いしてもよろしいかしら」
「お願い、ですか?」
「ええ。化学室まで行って、クラス全員分の実験ノートを受け取ってきていただきたいの。明日の化学で使う予定なのですけれど、まだ返却されていなくて……」
「細井先生、いつも準備室に置いたままにされることが多いんです。私が取りに行ければよかったのですが、このあと委員会があって……」
委員長は、申し訳なさそうに眉を下げた。
(特に放課後は予定もないし……それに)
化学室のある特別棟は、普段使っている教室から離れている。
ノートを取りに行くという理由があれば、怪しまれずに校内を歩き回れるはずだ。
もしかしたら、途中で先生や生徒たちの会話が聞けるかもしれない。
「大丈夫です。私、取りに行ってきますね」
「助かりますわ。ありがとう、さん」
ほっとしたように表情を和らげる委員長に軽く頭を下げて、私は席を立った。