第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
適当にお茶を濁すと、真澄は深く追求することもなく、うんうんと頷いていた。
「そっか。でも、すっごく嬉しい。また野薔薇ちゃんに会えるなんて」
真澄が、ふわっと顔をほころばせる。
笑うと、片方の頬にだけ小さなえくぼができるのよね。
昔からそうだった。
「……で?」
「え?」
「なんでさっき、知らないふりしたのよ」
真澄の笑顔が、少しだけ固まった。
私は腕を組んで、じっと真澄を見る。
「忘れてたわけじゃないんでしょ。なら、何?」
「それは……」
真澄は気まずそうに視線を落とした。
「さっき華道部にいた子たち……仲間意識が強いっていうか。あそこでいきなり転校生と親しげに話したら、後で何言われるかわからなくて……わざと、そっけない態度とっちゃった。ごめんね」
……なるほどね。
閉鎖的な女子校特有の、めんどくさい派閥ってやつか。
「あんたも大変ね。別に気にしてないわよ。私は、あんたが私のことすっかり忘れてるのかと思ったってだけ。……まぁ、あんなクソ田舎のことなんか、綺麗さっぱり忘れたい気持ちはわかるけど」
冗談めかして笑い飛ばすと、真澄は慌てたように顔を上げた。
「そんなことないよ!」
廊下に響くくらいの、真澄にしては大きい声だった。
「そんなこと……ない。あの時、野薔薇ちゃんが友達になってくれて……私、本当に嬉しかったんだよ」
「……急に大声出さないでよ。わ、わかったわよ」
真っ直ぐすぎる言葉に、少したじろいでしまった。
でも、あの頃のことを真澄もちゃんと覚えていて。
私と同じように、大事にしてくれていたんだと思うと、正直嬉しかった。
その気持ちを誤魔化すように、わざとらしく咳払いをして、廊下の先へ顎をしゃくった。
「ほら、いつまでもこんなところで立ち話してたら目立つでしょ」
「あ、そうだね」
私たちは、並んで昇降口へと歩き出した。