第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
華道部の見学が終わり、部員たちが花器や鋏を片付け始めた。
私も適当に手伝うふりをしながら、さっきの彼女の動きを目で追う。
けれど、周りにはまだ他の生徒たちがいて、とても声をかけられる空気じゃない。
(……一人になるまで待つしかないわね)
他の生徒たちが談笑しながら帰っていく中、私は廊下の壁に寄りかかって彼女が出てくるのを待った。
やがて、一人でうつむき加減に歩いてくる姿が見える。
角を曲がったところで、私は彼女の前に立ち塞がった。
「ちょっと待ちなさい」
彼女が、ビクッと肩を震わせて足を止める。
「あんた、真澄でしょ。秋月真澄。なんで知らないふりするのよ」
彼女は答えない。
うつむいたまま、鞄の持ち手をぎゅっと握りしめている。
やがて、おずおずと顔を上げて、信じられないものを見るように目を丸くした。
(……何よ、その顔)
まさか、本当に忘れられたんだろうか。
これじゃ、自分だけが友達だと思ってたみたいじゃない。
少しだけ苛立ちが混じった、焦りのようなものが込み上げてくる。
「釘崎野薔薇よ。覚えてないの?」
ここまで言えばわかるでしょ。
忘れたとは言わせないわよ。
睨むように見つめると、真澄は落ち着かない様子で廊下の左右を見回した。
やがて、周りに人がいないとわかったのか、真澄は私の方へ駆け寄ってきた。
「野薔薇ちゃん、ほんとに野薔薇ちゃんなの……?」
「……なんだ。やっぱり覚えてるんじゃない」
さっき知らないふりされた時は、正直ちょっとムカついたけど。
久しぶりの親友との再会に、怒るタイミングを逃してしまう。
「まさかこんなところで野薔薇ちゃんに会うなんて……!」
「こっちのセリフよ。あんた、急に転校しちゃうし」
「中学からこっちに入ったの。野薔薇ちゃんは? どうしてここに?」
「あー…………家の都合よ、都合。ほら、私も色々あってさ」
まさか呪術師やってて、潜入捜査中なんて言えるわけない。