第24章 「可惜夜に眠る 後編②**」
「はい。……すごく、綺麗です」
波の音が、静かな砂浜に心地よく響いていた。
でも。
(……朝が来ちゃった)
太陽が完全に顔を出して、海が明るくなっていくのを見ていると。
なんだか少しだけ、寂しいような気もして。
「……綺麗だけど。なんだか、ちょっとだけ……もったいない、かも」
「もったいない?」
先生が、不思議そうに小首を傾げる。
「昨日の夜から、ずっと幸せだったから……。このまま、夜が明けなきゃいいのにって、少しだけ思っちゃいました」
恥ずかしくて、俯きながら呟く。
すると、繋いでいた手が引き寄せられて。
(あ……)
すぐ目の前に、先生の顔。
朝の光に透ける白いまつ毛の奥で、蒼い瞳が私を真っ直ぐに見つめていた。
「……可惜夜だね」
「あたら、よ……?」
聞き慣れない言葉に、小さく聞き返す。
先生は、私の濡れた前髪を空いている方の手でそっと梳いてくれた。
「明けてしまうのが惜しいくらい、素晴らしい夜のこと。昔の言葉」
「明けてしまうのが、惜しい夜……」
その響きが、すごく綺麗で。
今の私の気持ちに、ぴったりと重なっていた。
「……先生も、そう思いますか?」
「うん。僕も。このまま朝なんて来なければいいって、ずっと思ってた」
繋いでいる手に、ぎゅっと力が込められる。
甘くて、どこか熱を帯びた視線が絡みついて。
顔に、じわっと熱が集まるのがわかった。
「……でも」
先生は私の頬に優しく触れて、とろけるように甘く、微笑んだ。
「こうして一緒に朝を迎えられるのも、悪くないね」
「……っ、はい」
私は先生を見上げて大きく頷いた。
ずっと、波の音は私を責める声だと思っていた。
あの日から逃げ続ける私を、冷たい海の底へ引きずり込もうとする音だと。
けれど、ぎゅっと握り返してくれた先生の大きな手が、そんな恐怖を全部塗り替えていく。
足元を濡らす波は、ただ心地よくて。
明けてほしくないと縋りたくなるような、可惜夜の終わりに。
先生と一緒に見る海は、ただただ愛おしかった。