第28章 「善意の逆理 Ⅰ**」
寮母さんが、必死に彼女の腕を掴んで引き留めている。
「落ち着きなさい! 今は警察の指示で、外に出てはいけないと――」
「嫌、嫌ぁっ! 死にたくないっ!!」
半狂乱になって暴れる女の子。
さっきの食堂での惨劇を見たショックで、パニックになっているんだろうか。
それにしても、尋常じゃない怯え方だ。
「……ったく。今度は何事よ。由緒正しいお嬢様学校じゃないのかよ、ここは?」
隣を見ると、野薔薇ちゃんがやれやれと盛大にため息をついていた。
「そこのあなた! 少し手伝ってちょうだい!」
不意に、寮母さんがこちらを見て声を張り上げた。
「……えっ、私ですか?」
自分を指差すと、寮母さんは頷いた。
「この子を部屋まで連れて行くから、反対側を支えてちょうだい! 私一人じゃ押さえきれなくて……っ」
「嫌だ! 離してよぉ……っ!」
まだ暴れようとする女の子を、寮母さんが抱え込んでいる。
部屋に戻って作戦会議する予定だったけど。
目の前で困っている人がいるのに、放っておくなんてできなかった。
「野薔薇ちゃん。私、手伝ってくるね。先に部屋に戻ってて」
「あんたって子は……何かあったらすぐ呼びなさいよ」
「うん、ありがと」
野薔薇ちゃんに手を振って、 急いで寮母さんと女の子の元へ駆け寄った。
「大丈夫。ゆっくりでいいから……」
暴れる女の子の腕をしっかりと掴んで、私の肩に回すようにして支える。
「いや……っ、死にたくない……っ」
間近で聞く女の子の声は、涙と恐怖でひどく震えていた。
私は寮母さんと一緒に、泣きじゃくる彼女の身体を支えながら、寮の廊下を歩き始めた。
♢
なんとか彼女の部屋にたどり着き、寮母さんと二人でベッドへ横たえさせた。
女の子はシーツをぎゅっと握りしめたまま、まだ小刻みに震えている。
寮母さんは乱れた息を整えながら、私に向き直った。
「この子が落ち着くまで、付き添っててあげてくれる? 保健の先生を呼んでくるから」
「あ、はい。わかりました」
寮母さんは足早に部屋を出て行く。
部屋の中には、私とすすり泣く女の子だけになった。