第24章 「可惜夜に眠る 後編②**」
手の中で、アメフラシがむにゅっとゆっくり身をよじった。
頭の先にあるウサギの耳みたいな二本の触角が、ぴくぴくと動いている。
「ほら、先生! 耳みたいの動いてますよ! 触ってみます?」
すると、先生はすっと一歩だけ後ろに下がった。
「……って」
「はい?」
「意外と、野生児だよね。アメフラシ素手で触る女の子、初めて見た」
「……!」
ひ、引かれている……
いくら海が懐かしかったとはいえ、はしゃぎすぎた!?
「ああああの、小さい頃、お父さんと……よくこうやって見つけて遊んでたし……」
「そ、それにこれ、害はない生き物ですし……っ」
「知ってるけど、この前祓った呪霊に似てる」
「……!!」
先生はまだ、微妙な顔をして私とアメフラシを見ている。
(ど、どうしよう……!)
引かれてるからって、ポイッと乱暴に投げ捨てるわけにはいかなくて。
生き物だし。
可哀想だし。
でも、このまま持っているわけにもいかない。
「あ、あの……これ、えっと……」
両手でアメフラシを持ったまま、あわあわと視線を彷徨わせた、その時だった。
手の中のぶよぶよした塊が、きゅっと小さく縮んだかと思うと。
(……ん?)
指の隙間から、どろりとした赤紫色の液体が溢れ出してきた。
「ひゃっ!?」
ぽたぽたと、毒々しい色の液体が海水にこぼれ落ちる。
私の両手は、あっという間に真っ紫色に染まってしまった。
「……」
先生の視線が、私の手元の紫色の液体に釘付けになっている。
ただでさえ『呪霊に似てる』と言われた直後なのに。
このどろどろの見た目は、完全にアウトだ。
「ち、血じゃないです! アメフラシの液で、無害なので……っ!」
「あわわ……っ、急に持ち上げられてびっくりしたのかな、ごめんね」
どうしていいか分からなくて、波打ち際でウロウロしてしまった。
先生は、そんな私を見て。