第24章 「可惜夜に眠る 後編②**」
『ほら、波が来るぞー!』
『きゃあ、つめたいっ!』
浮き輪につかまって。
お父さんとお母さんの手を引っ張って、水の中をはしゃぎ回っていた夏の日。
波の音も、水の冷たさも。
本当はすごく楽しくて、大好きだった。
あの日からずっと、怖い記憶で塗り潰してしまっていただけで。
私は、繋いでいる先生の手をぐいっと引っ張った。
「おっ、?」
驚く先生の声。
それに構わず、もう一歩、さらにもう一歩。
ふくらはぎの辺りまで、じゃぶじゃぶと水の中へ進んだ。
「冷たいけど……気持ちいいです、先生!」
振り返って先生を見ると、先生は一瞬だけ目を丸くした。
それから、ふっと目元をやわらかく緩める。
太陽が少しずつ昇り始めて、水面がきらきらと光り出した。
(あ……)
その時だった。
足元の浅瀬で、黒っぽくて、ぽってりした大きな塊が波に揺れているのが見えた。
「先生、ちょっと待ってて!」
私は繋いでいた手をぱっと離して、ざばっと両手を水の中に突っ込んだ。
「えいっ!」
勢いよく持ち上げると。
両手からこぼれそうなくらい大きくて、紫がかった黒い生き物。
ぶよぶよしていて、すごく柔らかい。
手の中のものを、先生の目の前に突き出した。
「先生、見てください! アメフラシです!」
先生は私の手元のアメフラシと、私の顔を交互に見ている。
(……あれ? )
なんだか反応が薄い。
もしかして、先生アメフラシ見るの初めてなのかな?
こんなにぽってりしてて、可愛いのに。