第18章 「血と花の話をしましょう**」
新田さんがほっとしたように、口を開いた。
「ご協力、ありがとうございますっす。必ず、真実を明らかにするっす」
そして、タブレットを取り出して奥さんに尋ねた。
「生前、ご主人に何か変わった様子……ありましたっすか?」
「たとえば、知り合いじゃない人が急に会いに来たとか、何か変わったものを受け取ったとか……」
「ほんと、どんな小さなことでも構わないっす」
奥さんはゆっくり視線を落とし、膝の上で重ねた指先をぎゅっと握った。
「主人は、亡くなる半年前から……在宅治療に移行していました」
「ほとんど家にいて……私も、ずっと一緒でしたし」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「だから……私が知る限りでは、家族や友人、職場の方以外で……誰かが訪ねてきたことは……たぶん、ないと思います」
言葉が途切れ、短い沈黙が落ちる。
「あ、そういえば……」
ふいに奥さんが、何かを思い出したように顔を上げた。
「主人……ネットショッピングを、よくしていて……」
新田さんが小さく首を傾げる。
「日用品とかっすか……?」
「ええ。もともと通販をよく使う人だったんですけど、在宅になってからは、なおさら……。私が知らないうちに、荷物が届いてることもあって……」
奥さんはそこで言葉を止め、わずかに眉をひそめた。
「ある日、荷物が届いて……代わりに開けようとしたんです。でも、“自分で開けるから”って、すぐ部屋に持っていってしまって……」
「何を頼んだのか聞いても……“ちょっとしたもの”とか、“気にしないで”とか……はぐらかされて……」
「そのときは、きっと趣味のものか何かだと思って……。そんなに気にはしてなかったんですが……」
微かに迷うように、奥さんの声が落ちる。
(その荷物の中に……手がかりがあるかもしれない)
「その荷物、まだ残ってたりしますか?」
私がそう尋ねると、
奥さんは少し考え、静かに頷いた。
「その荷物がまだあるかは、分からないですけど。まだ箱に入ったままのものが主人の部屋に……いくつかあったはずです」