第18章 「血と花の話をしましょう**」
「まるで、眠ってるだけみたいで……生きてるんじゃないかって、錯覚してしまうような……」
そこまで話したところで、言葉が途切れる。
少しの間を置いて、また静かに口を開いた。
「変な話だけど、どこか嬉しかったんですよ。花が咲いて……あの人が、私のそばに戻ってきてくれた気がしたの」
奥さんの声が少しだけ弱くなる。
「……ごめんなさい。こんなの、おかしいわよね」
そう言って、そっと写真を戻した指先が、ほんの少しだけ震えていた。
「そ、そんなことないです」
自然と口をついて出た言葉だった。
「大切な人が亡くなって……」
「たとえ幽霊になってでも、戻ってきてくれたら嬉しいって思うの、普通のことだと思います」
「私だって……きっと、そう思うから」
奥さんが少しだけ目を見開いた。
その目が、少し潤んでいる気がした。
そして、深々と頭を下げた。
「主人のこと……よろしくお願いしますね」
私は思わず姿勢を正した。
「はい……もちろんです」
奥さんは、ふと花に視線を落としたまま、小さく呟いた。
「……そういえば、この花……」
「1ヶ月以上前にもらったのに、全然枯れてないわ」
「え……?」
思わず声が漏れた。
そんなこと、ある……?
「ドライフラワーとか……じゃないですよね?」
「ええ。生花なんですけど。ここ最近忙しくて、水も変えてないのに……ずっと綺麗に咲いたままだわ」
奥さんは不思議そうに首を傾げる。
私は確認しようと思い、花に手を伸ばした。
指先が花に触れた、その瞬間――
視界が、爆ぜた。