第18章 「血と花の話をしましょう**」
(……これで、何かわかるといいけど)
ふと視線が、枕元の本に止まった。
須和清仁の『死の克服』。
最近まで読んでいたというし、付箋もたくさんついていた。
関係ないかもしれないけど、念のため。
そう思って、それも箱に加える。
「これで、だいたい全部っすかね?」
「……はい。目星になりそうなものは、入れたと思います」
新田さんが段ボールのふたを閉じ、ガムテープを留める。
私もその一部を抱え、新田さんとリビングへと戻った。
そのとき――
新田さんのスマートフォンが震えた。
画面に表示された名前を見て、新田さんの顔が引き締まる。
「あ、七海さんっす」
小声でそう言って、
少しだけ場所を外すように歩き出し、通話ボタンを押した。
「もしもし、新田っす。……はいっす――」
新田さんがリビングから遠ざかっていくのを横目に、私は段ボールをテーブルの横に置き、ふとリビングの一角に目を向けた。
最初に部屋に入るときにも目に入った、寄り添うように並ぶ笑顔のご夫婦の写真。
その写真の隣の、一輪の赤い花。
(……この花、なんて名前だっけ)
どこかで見たことがあるような、でも思い出せない。
じっと見つめていると、奥さんの声が隣から聞こえた。
「それ……アネモネっていうんですよ」
私は一瞬奥さんの方を見たが、すぐに花に視線を戻す。
「綺麗ですね……」
奥さんは写真を手に取り、ぽつりと話し出した。
「主人の体から……花が咲いた時、最初は不気味で仕方なかったんです」
「なのに……だんだん、綺麗だなって思うようになって」
「息を引き取ったのに……あの花が咲いてからは、触ると、まだ温もりがあるような気がして」
言葉を選ぶように、奥さんは話を続けた。