第16章 「心のままに、花が咲くとき」
***
「ったく、硝子のやつ……!」
先生がぼやくように言いながら、持ってきた紙袋の包みを開ける。
「が目を覚ましたって、なんで僕に言わないかなあ?」
(……あれ? 硝子さん、先生に伝えるって言ってたような……?)
一瞬だけそんなことが頭をよぎったけれど、
包みの中から現れた和菓子が目に入って、自然と表情がゆるむ。
「……あ、これって」
私が首を傾げると、先生はふふんと得意げに鼻を鳴らした。
「伊勢名物 赤福。出張ついでに買ってきた」
そう言いながら、一つ私に差し出してくれる。
それを受け取ると、甘いあんこの香りがほんのりと漂ってくる。
「……いただきます」
ぱくりと一口。
なめらかなこし餡と、もっちりとしたお餅が舌の上でとろける。
「……おいしい。甘いもの、久しぶりです」
「でしょ~? あ、そこのテーブルに置いてあるのも全部食べていいからね」
先生はそう言いながら、自分もひとつ頬張る。
私は、ベッドサイドの箱の山に目をやった。
「……これ、やっぱり先生が?」
「うん。北から南まで、日本全国の甘いものが楽しめるよ」
「……ふふっ」
思わず笑ってしまった。
全部甘いものなところも、先生らしい。
赤福をもう一口食べようとしたとき、
「……それより」
その声に、私は顔を上げる。
「“送った”んだね」
先生の瞳がまっすぐこちらを見つめていた。
さっきまでと同じ優しさをたたえたまま、
でも、そこに確かな真剣さが宿っている。
「現場に着いたとき、呪霊の気配はもうなかった。けど……白く光る花が、いくつか残っててさ」
先生はふと視線を落として、思い出すようにゆっくりと続けた。
「あの光……不思議だった。
祓ったあとって、もっとこう、荒れてるもんなんだけどね」
「それがさ。あったかくて、きれいで――見てると、不思議と安心するような。……そのもの、って感じ」
先生のその言葉に、私はふと目を伏せた。